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ホビット 思いがけない変更〜アゾグで読み解く3部作化の苦心〜(後編)

2013年02月17日 21:39

■アゾグの再設計

話は元に戻って2012年7月、『ホビット』を3部作で制作することを決断したピーター・ジャクソン監督とライター陣は、もう一度アゾグの扱いを検討し直します。アゾグを第1部を通しての最大の敵とし、予定されていたボルグの本格的な登場(…というのは、アザヌルビザールの合戦にチラリと映っているからです)を第2部以降に変更したのです。

PJはこの時点で、アゾグを抜本的に作り替えたのだと思われます。
まず、最初はボルグと同じようにフィジカルな特殊メイクで表現するつもりだったキャラクターを、モーションキャプチャーを使ったフルCGに変更、残忍で凶暴でありながらどこかミステリアスな風貌の巨大オークを作成しました。そして、メインキャラクターとして演技力も存在感もあるマヌー・ベネットを呼び寄せ、配役を変更した上、8月に追加撮影を行ったのです【Source:Twitter

このときジョン・ロールズは、アゾグからヤズネグという名の映画オリジナルキャラクターへと配役を変更されたのですが、ヤズネグとはどんなオークかといいますと、この方(左画像)です。アゾグに命じられて、トーリンとドワーフたちを追跡するワーグライダーのリーダーです。

そして次の画像は、先月Weta Digitalが公開したアゾグのメイキングムービーから構成したものです。
トーリンが後に「トーリン・オーケンシールド」と呼ばれることになった件の戦いの相手を、そっくりフルCGのアゾグに差し替えたことが説明されています。
差し替えられたオークは一見すると先に紹介したヤズネグのようですが、このシーンの重要性からすれば、ジョン・ロールズ扮する旧デザインのアゾグだったのではないでしょうか。任務に失敗して簡単にワーグのご飯にされてしまうオークとの戦いによって“樫の盾”の呼び名がついたなんて、ちょっとしまりませんから。
つまり、ヤズネグというキャラクターは、アゾグの再設計が決定して初めて生まれたキャラクターであり、そのデザインは没になった旧バージョンアゾグのデザインを、殆どそのまま引き継いでいると考えられるのです。


新しいアゾグに差し替えられた、アザヌルビザールでのトーリンの死闘。

■アゾグとヤズネグの関係

旧アゾグ=ヤズネグと考えるもう一つの理由は、タイアップ商品における主要オークキャラクターの扱いです。
タイアップ商品は公開とタイミングを合わせて販売するために、先行して製作が進められていることは先にお話ししましたね。下の表をご覧ください。主なタイアップ商品に登場したオークを発売日順にまとめてあります。

制作スケジュール 主なタイアップ商品に登場するオーク
2012年7月 6日:クランクアップ
30日:3部作化発表
 
2012年8月   30日:Danilo Promotions Ltd.『ホビット』カレンダー(ボルグ)
     
2012年10月   1日:Bridge Direct アクションフィギュア(ボルグ、フィンブル)
2012年11月 28日:ワールドプレミア 6日:公式ガイドブック(ボルグ)
6日:ビジュアル・コンパニオン(ボルグ)
2012年12月 14日:世界同時公開 1日:LEGO 『ホビット』シリーズ(ヤズネグ)

映画では第2部以降の登場となったボルグを始め、レゴラスやタウリエルまでが発売になりながら、実際に第1部に登場したアゾグはどこにも登場していないのです。このことを不思議に思われていた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

2012年10月1日、玩具メーカーのBridge Directから、『ホビット』シリーズ第一弾が発売されます。時を同じくして、このラインナップに含まれていないものの、何故か既に完成していたヤズネグの画像がネットに流出します。【Source:Tolkien Drim
左がその画像ですが、こちらもアゾグ同様第1部に登場しながら、しかも、製品が出来上がっていながらラインナップから外されたということはどういうことでしょうか?
それは、こう考えれば辻褄が合います。

最初はアゾグとして作られた。
→3部作化決定により、アゾグのデザイン変更の知らせがスタジオから入る。
→この時点でラインナップ発表の締め切り。アゾグの発売中止。
→後日、アゾグの最終デザイン入手。同時に、既に製作されていた旧バージョンは、ヤズネグとして売り出せることが分かる。
→第2弾でアゾグ、ヤズネグ販売決定
(*実際に、2月11日にニューヨークで開催されたTOYフェア2013のBridge Directのブースに登場となりました)

更に、左のヤズネグのフィギュアをクリックして拡大画像で見てみて下さい。実際に映画に登場したヤズネグ(前述の画像参照)より顔つきも上品で精悍な上、ずっと手の込んだ禍々しいキャラクターデザインであることが分かります。
上着と“前掛け”に、いくつも人の顔が浮かんでいるのがはっきり見えますね。忌まわしい想像ですが、これ彼の犠牲となった人間やドワーフたちから剥ぎ取った顔の皮をあしらっているのではないでしょうか。もしそうだとすると、アゾグというキャラクターにぴったりのデザインだと思うのです。

映画でも、とにかくトーリンの「首」に拘るアゾグ。他の部分は要らないとゴブリンの王に言わせていましたね。トーリンの祖父スロールも首を刎ねられていました。
映画の字幕では“穢れの王アゾグ”となっていましたが、原文は“Azog the Defiler”、 Defilerは「冒涜する者」の意味です。原作でもアゾグは、斬り落としたスロールの首(の額)に自分の名を焼き付けたとあります。
犠牲者の首から剥いだ皮を身に纏うオーク、死者に対する冒涜この上ないオークがアゾグでなくてどうしましょう。


The Bridge Direct:THE HOBBIT series.
ちなみに、10月1日にボルグと同時に発売されたフィンブルという名のオーク(左画像)は、これも映画のオリジナルキャラクターなのですが、SF fan.deが7月時点ですっぱ抜いたアクション・フィギュアのパッケージ添付用のテキストによれば、フィンブルは「ワーグライダーの群れを指揮する」とあります(映画でも、ヤズネグとともにワーグに乗っています)
つまり、ヤズネグと全く同じ役割なのです。そして、このリストにはアゾグの名があってヤズネグの名はない。
このことからもヤズネグは、アゾグを最終的にメインの悪役として再設計し、それに相応しい力量の俳優を据え直したとき、先に決定していた俳優と先行してグッズを作ってしまったメーカーへの配慮で、言わば“仕方なく”生まれたキャラクターのような気がしてならないのです。

■Out of the Frying-Pan into the Fire

紆余曲折を経て出来上がった新たなアゾグが、第1部を通してのメインの敵役となり、クライマックスである彼とトーリンの対決が行われる場所が、霧ふり山脈のゴブリンの裏門を出た崖縁です。
2部作として書かれたシナリオでは、この場所で物語がどう展開したかを考えてみましょう。

前編で述べましたが、樽での脱出をエンディング前の最大のクライマックスと想定した場合、“視覚的”に最大の見せ場であるゴブリン町の脱出と、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズをも含めた物語全体の肝となる一つの指輪の発見とビルボの“情け”のシーンの後に、3部作となった『ホビット 思いがけない冒険』と同様のインパクトのある山場をもってくることは、ドラマ作法上通常は有り得ません。

下の画像をご覧ください。Bridge Directのアクション・フィギュアから遅れること2ヶ月、お馴染みLEGO社から『ホビット』シリーズ第1弾が販売になりました。その「Attack of the Wargs」セットを見ると、白い巨大なオークに乗ったキャラクターに、映画では失敗を咎められて早々に殺された「ヤズネグ」の名がついています。


LEGO® THE HOBBIT™


LEGO® THE HOBBIT™
恐らくこちらも、先にアゾグとして作られたものの、そのデザインが変わってしまった関係で、シチュエーション的にはまさしくアゾグでありながら、ヤズネグとして販売せざるを得なかったのでしょう。
それはともかく、この画像で分かることは、2部作のシナリオにおいても、このシーンにアゾグは登場したということです。ただし、ジョン・ロールズ版アゾグ、物語中盤から役割をボルグに交代する前提のアゾグです。
先のシナリオ作法を合わせて考えれば、トーリンとの対決はあったかもしれないが、トーリンの勝利に終わった。あるいは、グワイヒアに摘まれてそのまま崖下へポイされた結末すら意外ではないと思えるのです。

つまり、この「一難去ってまた一難」の場面で2部作と3部作とで決定的に違うところは、トーリンが絶体絶命の危機に陥らない、従ってビルボが捨て身で庇うシーンも存在しないということです。
勿論そうなれば、カーロックでの「わたしが間違っていた!」とビルボを情熱的に抱き寄せるトーリンのシーンも存在しなかったことになります。
ここで、一番最初の「あてる曲がなかった」の話に戻りましょう。

ナズグルのテーマほど強烈な印象が残らないので、お気付きにならなかった方もいらっしゃるかと思いますが、トーリンのハグシーンに使われている音楽も、アゾグ VS トーリンのシーン同様、LotR3部作からの“ありもの”なのです。
ここで使用されているのは、『ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還』の戴冠式の曲の一部です。目を瞑ってこちらを40秒ばかり聴いてみてください。あの場面が目に浮かぶ筈です。

『ホビット 思いがけない冒険』のサウンドトラックの録音作業は、ロンドンの有名なアビーロードスタジオで2012年8月20日に始まりました。3部作化決定の翌月です。【Source:The Music of LotR Films
それまでに新たな脚本が書き上がり、よしんば作曲が間に合ったとしても、オーケストラの団員が練習を重ね、レコーディングすることまでは無理だったのでしょう。当然、発売されたサントラCDには、通常版、特別版共にこの2つシチュエーションの音楽は収録されていません。

そもそも、映画の最大のクライマックスと、最高にエモーショナルな場面に、ハワード・ショアが曲を書き起さない筈はないのです。ですが実際に公開された映画では、その2シーンに既成の音楽が使用されていた。つまり、3部作化に伴う物語の変更で、新たに付け足されたが故に用意した音楽では間に合わなかった部分がこの箇所なのです。

アゾグというキャラクターが強大な力を持つに至り、トーリンが盛大にデレるに至ったのは、どれもこれも「思いがけない3部作化」がその原因だったのです。

■おしまいに

昨日UPした前編をお読み下さった方から「ショックだった」というお声も頂戴しました。
今までに述べたような理由で、件の部分が3部作化に際して新たに作られたエピソードであり、それ故曲がなかったのは充分あり得る話だと思っています。ただ、“ありもの”の中から選んだ曲が、何故よりによってナズグルのテーマだったかは勿論話が別です。
そこは、たまたま雰囲気があったものを選んだだけかも知れませんし、色んな場所で語られているように深遠な理由があったのかもしれませんが、各自の自由な考察に任される部分だと思います。

皆さまがおっしゃるようにピーター・ジャクソン監督は完璧主義者かもしれませんが、完璧主義というのと、全てのカットを何から何まで理詰めで構築することとは別だと思います。
ワタクシにとってのPJ映画の魅力とは、映画(motion picture)としての根源的な喜びに溢れているところに尽きます。その昔ルミエール兄弟の迫り来る汽車に肝を潰した人々のように、「動画」を見る驚きそのものです。
PJは映画作りに決して手を抜きませんが、それは多分に、映画作家としての類い稀な本能の命ずるままであって、理屈はあとからついてくるタイプだろうと、そう思っているのです。
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コメント

  1. あんじぇ | URL | LUUrCMQg

    ■frodopyonさま

    ワタクシも一番気にしているのが、おそらく3部作にしたためであろう、物語のこんなにも早い位置でデレてしまったトーリンの行く末です。
    アーケン石の件でビルボに裏切られたと思ったトーリンの衝撃、怒りと悲しみを思うと胸が張り裂けるようでもあり、昼メロ的な展開を期待して不埒にときめいたり(笑)です。

    コメントありがとうございました。
    仕事の関係でこまめに投稿したり数ヶ月沈黙したりのブログですが、またどうぞ覗きにきてやって下さいませv

  2. frodopyon | URL | 1B1fl4eY

    Re:ホビット 思いがけない変更〜アゾグで読み解く3部作化の苦心〜(後編)

    twitterの方ではお世話になっておりますm(__)m

    今回の考察、非常に興味深く拝見致しました。
    そして、「ホビット」に対して何となく感じていた違和感が全て、
    3部作化による弊害(と言っては大げさですが)ということが分かりました。

    ・パンに薄く伸ばしたバターみたいな仕上がりだな
     ⇒だって、本当に引き延ばしたしー

    ・サントラを聞いてもLOTRほど情景が浮かばないなぁ
     ⇒だって、後半クライマックス部分は収録されてないしー

    ・トーリンって、これからもビルボにぶーぶー文句を言ってたような
     記憶があるけどいいのかな
     ⇒でも、感動的な場面は欲しかったしー

    …と、いうことだったのですね!?
    私の中では非常にスッキリ致しました。
    これからの更新も、楽しみにしています^^

  3. あんじぇ | URL | LUUrCMQg

    ■周芳さま

    お待たせしました。書き始めてから結局10日くらい引っ張っていましたが、周芳さんが参上すると仰って下さったので、頑張れました*^^*

    アゾグはアザヌルビザールでも例の崖っぷちでも「ンまっ!」と言っていましたね。
    口癖かと思っていたのですが、唇があることで他のオークに対する優位性を主張していたのですね(自分の考察なんて所詮こんなもんですw)

    語りたいことは沢山あっても、社会人故なかなか時間が自由になりませんが、第2部のニュースが殆ど入って来ない今のうちに、なるべく読み物っぽい記事もUPしていこうと思います。
    コメント、本当に有り難うございました…!

  4. 周芳 | URL | -

    Re:ホビット 思いがけない変更〜アゾグで読み解く3部作化の苦心〜(後編)

    お見事お見事!
    納得できます。
    しかし…いつも思うのは、オークやゴブリンの造形の、何と言うか…
    よくそれでちゃんと発音ができるね、と言いたくなる。
    アゾグには薄っぺらいながら口唇があるようだから「ま」の発音もできようが、他のオークにはとても無理なんではないかと思うのであります。

    あ、関係ない方向に話が行ってしまった。
    失礼しました(・・;)

    次の更新も楽しみにしてます!\(^o^)/

  5. あんじぇ | URL | LUUrCMQg

    ■ぐらさま

    はじめまして…と申しましても、わたくしのほうこそ、長年ぐらさまの日記やHPを楽しませて頂いておりましたので、今すごく舞い上がっております。ようこそお越し下さいました…!

    中盤までのLotRのモティーフを使用した箇所は、意図も明確ですしアレンジもされているのに、終盤の音楽の構成が妙に粗い、わたくしの違和感もまずそこでした。
    使用された曲について気付いた箇所は他にもあったのですが、具体的に証拠が示せる部分だけをとりあげてみました(本音をいうと、立証していく根気が続かなかったり^^;)
    でも、サントラ収録の終了日まで、きちんとチェックしておりませんでした〜!ツメが甘い性格丸わかりですね、面目ない。
    アゾグの変遷については、完全にわたくしの拙い推理ですので、エクステンデッド・エディションなどで舞台裏が説明されてみたら全くの見当違いということになるかもしれないのですが、楽しんで頂けたら幸いです。
    コメント、本当に嬉しゅうございました。これからも宜しくお願い致します。

  6. ぐら | URL | /mQjqsVU

    Re:ホビット 思いがけない変更〜アゾグで読み解く3部作化の苦心〜(後編)

    はじめまして。といってもいつも楽しみに読ませていただいてました。
    例のナズグルのテーマ、ずっと気になっていたのですが、私も急に三部作になって追加になったのではないかと思ってました。
    王の帰還の戴冠式の場面のサントラの他にも、鷲たちが来たあたりから、トーリンが気がつくあたりまでも二つの塔のサントラが結構長時間使われていて、いくらなんでも同じサントラが多すぎると思ってまして。そういうサントラが終盤に集中しているのも怪しいなと。
    ラストのはなれ山を見るあたりのドワーフのテーマも、ホビットオリジナルのサントラではありますが、袋小路屋敷で流れたのと全く同じではないかと思います。ここは敢えてかもしれませんが・・・
    冒頭でも旅の仲間のサントラが結構使われてましたが、皆アレンジしなおされていましたから、終盤のあまりにもそのままなサントラには違和感がありました。ショア氏が最初からそんな大雑把な仕事はしないのではないかと・・・
    ただ、サントラの録音の終了は11月19日くらいだったそうで、新しい曲を作って録音するのが全く不可能とまでは言えないスケジュールかなとも思うので、絶対とは言い切れないかなとも思いますが・・・
    でも、そんな訳で、私も「曲が間に合わなかった」説に賛成です。(長々とすみません・・・)

    アゾグの変遷の歴史?面白かったです! 確かにアゾグのビジュアル、事前にあまり見かけなかったなあと・・・そんな経緯があったのですね!

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