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ホビット 思いがけない変更〜アゾグで読み解く3部作化の苦心〜(前編)

2013年02月16日 19:22

この記事を書こうと思ったきっかけは、先日来ツイッターやファンサイトのフォーラム、また個人ブログ等で、「映画のクライマックスであるアゾグ VS トーリンのシーンで、ナズグルのテーマが使われているのは何故か」という疑問に対して、トールキンクラスタによる様々な意見が交換されているのを目にしたことです。
曰く「行方不明のトーリンの父スライン2世が所持していた“7つの指輪”はトーリンの手に渡り、この時既に彼が指輪の影響下にあることを暗示している」、曰く「トーリンの手によって一度は死んだ筈の悪(アゾグ)が蘇った、この状態が生と死の狭間を彷徨うナズグルと似ているからである」等々…。

真剣な意見の遣り取りを尻目に、極めて俗物なワタクシめは、

「えっ?そこにあてる曲を作ってなかったからじゃないの?」

と即座に思ってしまった訳ですが(ホントすみません)、日々制作に関するニュースを追いかける中で気付いたあれやこれやを考え合わせますと、あながち間違ってもいないのではないかという結論に至り、情報を整理するにつけ見えてきた3部作への移行に伴うスタッフの苦心について、僭越ながら大真面目に語ってみることに致しました(今回も当然ながらネタばれあります


© MGM, New Line Cinema, WingNut Films & Warner Bros.

■2部作から3部作へ

まず、2007年12月に『ホビット』の映画化発表が行われてから、ずっと2部作で制作される予定だったこのシリーズが3部作となった経緯について振り返ってみますね。

2012年7月6日、『ホビット』の主要部分に対する266日に及んだ撮影は終了しました。
この後12日からサンディエゴで開催されたコミコン・インターナショナルの直前になって、「『ホビット』3部作に変更か?」の噂が流れ始めます。15日に行われる『ホビット』のプレゼンテーションにおいて、ピーター・ジャクソン監督が3部作になったことを電撃発表するのではないか?とも言われていました。
しかし、この噂をワーナー・ブラザーズの公報担当者は全面否定。3部作が計画されたこともなければ、コミコンでのサプライズ発表もないと発言したのです【Source:Variety
しかし、ジャクソン監督はコミコン会場でのインタビューの中で、「確かに(2本の)映画に収まらない素材についてスタジオと話しをしている。それが拡張版(EE)になるかどんな形になるかは分からないが、議論は進行中だ」と語ったのです【Source:HitFix

この結末は皆さまご承知の通りです。
7月30日、PJは彼のfacebookにて3部作決定を報告。それから4ヶ月に満たない11月28日には、『ホビット』3部作の1作目である『ホビット 思いがけない冒険』はウエリントンでワールドプレミアの運びとなったのです。

何故最初に長々と3部作化発表当時の話をしたかというと、この決定がどのくらい急に行われて、それに伴う作業がどのくらい短時間で行われたかをイメージしてもらうためです。
PJは7月30日の記事でこう書いています。

撮影したフィルムを腰を据えて見る機会を最終的に得るのは、撮影終了後しかない。
最近、ぼくとフラン(・ウォルシュ)、そしてフィル(フィリッパ・ボウエン)は、初めて最初の映画と2本目の映画の大半を見る機会に恵まれた。物語の統一性、特に登場人物たちの説得力と、その登場人物たちに命を吹き込んだキャストには本当に満足したが、その全ては、とても単純な疑問を生じさせることになった。「ぼくたちには、もっと多くの物語を伝える機会があるのではなかろうか?」

勿論、撮影中から「これはとても2本では語り切れないな」と感じていたことと思いますが、3部作化を現実的に考え始めたのは、彼の言葉を信じるならばクランクアップ後ということになります。
すぐにスタジオと交渉するも、7月中旬に行われたコミコンの最中はまだ議論半ば。これはワーナーの広報担当の発言からも、またコミコン用に準備されたビデオには、2部作を前提にエスガロスの舞台裏まで組み込まれていたことからも分かります(このビデオは9月にネット流出して話題になりました)

■2部作としての『ホビット 思いがけない冒険』

3部作化決定で、『ホビット 思いがけない冒険』が2012年7月以前の構成からどう変化したかを考える前に、そもそも2部作であったらどんな話になっていたかを推理してみたいと思います。

これについてはヒントは沢山あります。何故なら先に述べた経緯により、3部作化への決断が非常に早急かつ公開まで間がない時期に行われたために、映画公開に合わせて販売すべく先行して作成されていたタイアップ書籍やグッズに、当初は第1部に登場する予定だった場面やキャラクターが多数使用されているからです。
勿論、スタジオやピーター・ジャクソン監督だってそのつもりだったのですから、7月以前に発表されたプロダクション・ビデオや公開されたスチルにも、沢山カーロック(ラストに一行が鷲に運ばれて着いた“見張り岩”)以降のシーンを見ることが出来ます。

その中で最も分かり易い例として、下の2つのバナーをご覧ください。上がコミコン開催に合わせて7月9日にワーナー・ブラザーズが公開したバナーポスター、下がそのほぼ2ヵ月後の9月7日に改めて公開されたバナーポスターです。
画像の右側が大きく変更されていることが分かりますね。下の新しいバナーでは、最終的に公開された映画のクライマックスの舞台が右端にきています。
そう、7月時点では、“熊の人”ビヨルンと出会い、闇の森のクモたちと戦い、少なくともビルボとドワーフの仲間たちがエルフ王の地下牢から脱出するまでの物語は第1部で語られる予定になっていたのです。恐らく、クライマックスを“樽の川下り”とし(児童小説の語り口ではコミカルにも聞こえますが、実際あれやったら命がけですものね)、たての湖のほとりから、エスガロスとその背後に聳えるはなれ山を臨むエンディングだったのではないでしょうか。


↑2012年7月9日に公開されたバナー


↑2012年9月7日に公開されたバナー

■変転するオークたち

2部作だった場合の構成については推測の域を出ませんが、確実に言えることは、2本の映画で語るつもりだった物語全体を単純に3等分の位置でスパッと切っただけでは、作品として成り立たないということです。
たての湖まで語る筈だった旅の道程は短くなり、その分エピソードも減りました。しかし減ったエピソードの中から、一本の映画として観客が納得するクライマックスを作り直さなくてはなりません。勿論、印象的なエンディングも必要です。
シナリオ修正の必要に迫られたPJ以下ライター陣が目をつけたのが、そうです、蒼白き穢れの王・アゾグです。
「コイツをもっと強大な敵役に作り替えて、その対決で第一部のクライマックスを作ろう!」そういう話になったのだと思います。


では、アゾグとはそも何者かということについて、アゾグ&ボルグのオーク親子と、スロール(トーリンの祖父)親子3代の関わりについて、原作上の設定をかいつまんで説明しておきますね(年表は『指輪物語』追補篇 第三紀の年代に準じています)

  • 2770年:悪竜スマウグ、エレボールに飛来。スロール、スライン2世、トーリン2世と共に逃れる。
  • 2790年:スロール、従者と2人でモリア東門前のアザヌルビザールへ向かい、従者の制止を聞かず単独モリアに入り、モリアのオークの首領アゾグに殺害される。ドゥリンの世継の屈辱的な死は全ドワーフを激しい怒りで満たし、復讐の戦いを決意させる。
  • 2799年:アザヌルビザールの合戦。父ナインと共にくろがね連山より参戦したダイン2世(鉄の足のダイン)、アゾグを討ち取る。ナインは戦死。スラインとトーリン、西へと放浪。エレド・ルインの南に落ち着く。
  • 2841年:スライン、エレボール再訪の為に出発するも、サウロンの配下に追跡される。
  • 2845年:スライン、ドル・グルドゥアに幽閉される(5年後に死亡)
  • 2941年:ビルボとトーリン一行、エレボールを目指す。アゾグの息子ボルグ、エレボールにドワーフたちが戻ってきた知らせを聞いて襲撃。ダイン、くろがね連山のドワーフを率いてトーリンの救援に向かう。ボルグ、ビヨルンに殺される(五軍の合戦)

------とまぁこんなところですが、映画しかご覧になっていない方は、ちょっとショックを受けたかもしれませんね。
スロールは合戦で討ち取られたわけでもなければ、アザヌルビザールでアゾグを倒すのもトーリンではありません。ドワーフ憎しと追ってくるアゾグの息子ボルグさえ、ビヨルンに殺されます。
この原作設定を前に、ギレルモ・デル・トロ監督を含む4人が唸りながら、ああでもないこうでもないとキャラクターのカードを何度も組み直している様が目に浮かぶようです。

原作『ホビットの冒険』に描かれたビルボの冒険のみならず、放浪の身でありながらその実ドワーフ一族の長であるドゥリンの家系の王たるトーリン・オーケンシールドを(宛らフロドとアラゴルンのように)ビルボと並ぶもう一人の主役に据え、ドワーフの興亡史をも加えることで、『ホビット』をLotR3部作に負けない重厚な中つ国叙事詩に仕立てようと試みたPJらスタッフ。
彼らはトールキンが設定したドワーフ史を、原作を読んでいない観客が混乱しないよう分かり易く整理し、かつトーリンの英雄譚として作り替えることにしたのでしょう。それがアゾグ親子とトーリンを、より直接的な年来の仇敵同士とした映画版『ホビット』の設定です。

悪役としての色気たっぷりに堂々たるアゾグを演じたのは、TVシリーズ『スパルタカス』等で有名な肉体派俳優、マヌー・ベネットですが、アゾグ役に決まったのは、3部作への変更が決定した後のことでした。
実はこのアゾグという役、マヌーに決定するまで役者が2度変わっています。
最初は2011年5月にコナン・スティーヴンスがアゾグ役を演じると、PJ自身がfacebookで発表しましたが、2012年4月には息子のボルグ役に変更となりました。このとき、彼に代わってアゾグを演じることになったジョン・ロールズは、最終的にマヌーがアゾグとなった後は、映画のオリジナルオーク、ヤズネグ役に変更となっています(下の表をご参照下さい)

制作スケジュール アゾグ
(原作にあり)
ボルグ
(原作にあり)
ヤズネグ
(映画オリジナル)
2011年3月 21日:クランクイン 未定 未定 未定
2011年5月   コナン・
スティーヴンス
(変更)

 

 

2012年4月 ジョン・ロールズ
(変更)
コナン・
スティーヴンス
(決定)
 
2012年7月 6日:クランクアップ
30日:3部作化発表
マヌー・ベネット
(決定)
ジョン・ロールズ
(決定)

 

 
2012年11月 28日:ワールドプレミア

この表から何が見えてくるかというと、まず、3部作化の問題が発生するより前に、アゾグというキャラクターの位置付けに、制作陣はかなり頭を悩ませていたということです。

主要なオークを演じるキャストの中で、まずコナン・スティーヴンスがアゾグ役に決定します。
コナン・スティーヴンスは身長2.16メートル。その恵まれた体型を活かしてTVシリーズを中心に活躍してきたアクション俳優ですから、アゾグ役に相応しい配役だった筈です。ジャクソン監督によるビデオブログにもアゾグ役として登場してきますから、少なくとも第2ブロック半ばまでは、予定通り撮影が続けられていたと思われます。
2012年4月、コナン・スティーヴンスはボルグ役に変更、アゾグ役はジョン・ロールズに変更の情報が入ってきます。【Source:HDRF
ジョン・ロールズはイギリス生まれニュージーランド育ちの俳優で、舞台やTVでそれなりのキャリアはありますが、国際的に見れば無名に近い存在です。また、スケジュールの都合等でコナンが降板した訳ではなくボルグへの変更ということは、恐らくこの時点でシナリオが修正され、メインの悪役は息子のボルグにシフトしたのではないでしょうか。ボルグの凝りに凝ったキャラクターデザイン(左上画像)からも、制作側の熱の入れようが伝わってくる気がしませんか?
《後編へ続きます》


*** 拍手&拍手コメント、有難うございます! ***

■Nさま
身に余るコメント、ありがとうございました…!
ワタクシもン十年来の『指輪』ファンですが、生来の引っ込み思案故、映画公開後に出来たコミュニティに入っていけず、その反省もあって『ホビット』の映画化が決まったときは、早々にこのブログを立ち上げました。なので、同じトールキンファンの方にお声をかけて頂けたなら、それが何よりのご褒美です*^^*
Twitterはそもそも、仕事が忙しかったりして記事が更新出来なくても、映画に関するニュースだけはすぐにシェアしたいなと思って始めたのですが、時折犬とか、ジャムとか、管理人の地味〜な日常が混ざります(笑)こちらも笑って見て頂ければ幸いですv
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